「ロビイスト」って、日本では聞いてもあまりなじみのない言葉。
政治家に働きかけて法律の流れを変える、アメリカでは実在する“交渉のプロ”のこと。
この映画『女神の見えざる手(Miss Sloane)』は、そんなロビイストの実像を描いた社会派スリラー。
主人公はジェシカ・チャステイン演じるスローン。銃規制法案を通すため、銃規制法案反対の立場をとった事務所から移籍して熾烈な戦いを繰り広げる。
彼女は、議員、メディア、世論までも巻き込んで“空気”を変えていく。
これがもう、見応えたっぷり。
感想として強く思ったのが、
「ロビイストという役割名称が日本には明確に存在しない」こと自体が、実はとても危うい、という事。
アメリカではロビー活動は規制されていて、登録義務もあるし、誰がどこに働きかけたかが分かる仕組みになっている。
でも日本では──その役割が明確ではないからこそ、責任を問えない、規制できない、明るみに出ない。
昔から同様の活動をしている者達はいるものの、
広告代理店がメディアの流れをつくり
天下り先が行政と企業のつながりを支え
各業界団体が票と圧力を背景に政治と結びつき
議員秘書が実働部隊として動き
そして、そのすべてが「政治資金」として曖昧に処理されていく
名前こそないけど、これってまさに“日本版のロビー活動”?
そして最近では、SNSやインフルエンサーを使った「空気づくり」や「世論の演出」まで登場。
あたかも自然発生したように見せかけて、実は誰かが仕掛けている──そんな「デジタルロビイスト」的な存在が増えつつあると感じる。
映画の中でスローンは、そうした“見えない交渉の技術”を使いこなしながら、最後の最後にまさかの手を打つ。
なんと、彼女は自分自身を“切り札”として差し出す。
自らの罪を暴かれることを利用して、相手を完全に追い込む。
そこには私利私欲ではなく、「正しいと思ったことを通すためにすべてを差し出す」信念があった。
このラストは本当に衝撃。
政治や社会問題に興味がなくても、今の日本の空気感と照らして観てみると、気づかされることがきっとある。
むしろ、「興味がない」と思っている人にこそ、今だからこそ観てほしい映画。